私がその方に会った時 年代は60前・脳梗塞の後遺症で半身に麻痺が残ってしまった。
声がでにくいのか言葉もまれにしか発しない。
*1居室担当になったが受動的に施設のスケジュールにあわせて生活はしているがとにかく横になっていたいと話す。
リハビリ担当と他職種会議をするとリハビリにも意欲的ではなかった。
状態はそんな方だった。お風呂は個浴に介助で入るがトイレは自信が無いとオムツで生活をしている(病院でオムツ生活だったため)
私は診断は受けていないがおそらく麻痺が残った事によるショックで鬱状態だったのではないかと考えていた。
傾聴対応すると脳梗塞後の入院から施設入所の現在まで精神的に疲弊状態が続いていると。
「ずっと寝ていたい」と話す。
回復期ではあるが本人の気持ちが変るまでしばらくは好きな様に休めるようにすればいいと私は施設ケアマネ・リハビリ職と話した。今は信頼関係を作る時期なんだと。
それから私は毎日日課のように
「今日はどうですか」
と声をかける日々が続く。
死にたいと答えられる日もあれば、昨日と変らないと答えられる日もある。
そんな日々が数ヶ月続いた。
徐々に声をかけると会話や世間話ができる日が増えていった。
人間はずっとふさぎこんで生きていられない。どんな方でも出会った時の状態で生まれた訳ではなく今まで生きてきたその方の人生がある。
「あの町は面白かった」
「こういう仕事をしていたんだ」
なんて話してもらえるようになった。
ただトイレは絶対に出来ると伝えトイレにいくメリットを話しても「自信が持てない」と拒否される。
何ヶ月も長い間取り組んでいた事が実現される日がくる。私達はその瞬間を逃さなかった。
「トイレに行ってみようかな」と。
その方はちょうどそのタイミングで入浴の日だった為、私はその日の入浴担当にオムツでなくリハビリパンツを使うように頼んだ。
そしてトイレ誘導が完璧な形で実現して定着した。
「今は精神的に落ち込んでいて配慮が必要な段階」「信頼関係を気づいていきます」「活気はあがってきています」「トイレ誘導はまだ出来ていません」
家族にはケアプランのプロセスを開示していた。
次の生活の場が広げられるように時間がかかってもトイレ誘導は必ず出来るようにしますとも伝えていた。
帰りの運転中に思った事は、自分がとりくんでいた事、考えたケアプランが達成した喜びもあるが、おじさんがトイレに行くだけでこんなにうれしく思えるんだと。(普通人生でトイレにいけて喜んでもらえるのは子供の時1回だと思っていた)
トイレに行ける能力がある人が拒否をする。声をかけ精神面の変化を待ち信頼関係を強化しながらよりよい生活を送っていただくように支援する。
前向きな変化は絶対に見逃さない。
これだけの事に何ヶ月もかかる事がある。
だから達成したとき喜びがある。
だから介護は楽しいんです。
【イチロウ】 ━━━━━━━━━━━━━
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・ケアに必要となる会議への参加、書類作成
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*1:居室担当